第1章 出会い

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「なあ秋人、記憶から消える何でも屋って信じる?」 午後の講義も終わり人が疎らになる講義室。先に支度を終え隣で熱心にスマートフォンをいじっていた友人の門真圭一が、ふと思い出した様に口を開いた。記憶に残らない何でも屋。高瀬は突拍子もない発言をどうにか理解しようと頭の中で繰り返す。   「…ゲームの話?」    今日一日ゲームの話をした記憶はないが、先程門真が熱心に操作していたのは以前から高瀬が何度か薦められているアプリゲームだ。きっとその物語の話をしているのだろうと見当をつけて返事を返すと、わざとらしくため息をつかれた。   「ちげーよ、現実。」    ますます意味がわからないが、保育園の頃からの幼なじみである門真の言うことが理解出来ないことは少なくなかった。その場合の正解は無視。そうと決まればと高瀬は軽く小首をかしげて立ちがると、軽快な音楽がやんで慌ててリュックを背負った門真が追いかけてきた。   「たまに講義一緒んなる百合ちゃん、知ってるだろ? あの子の猫が居なくなったんだよ。」    無視したことを更に無視して、こそこそとボリュームをおとし伝えられた話はこうだ。 隣のクラスの百合ちゃんこと安藤百合は二歳になる黒猫を飼っていた。名前はニーア。怪我しているところを保護し、一年前から一緒に暮らし始めたらしいのだが、大層可愛がっていたその黒猫が二週間ほど前、弟が閉め忘れた玄関から逃げて閉まったのだという。 「でも見つかったんだよ。どこにいたと思う?」 「さあ…」 「百合ちゃんの腕の中!」    全く興味をしめしていない高瀬の反応などお構い無しで話を続ける篠崎はよほど興奮しているのか、聞き手の反応などどうでもよくなっているようだった。どれだけ探してもいなかった猫がつい先日自らの腕の中にいた、と。
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