下手な演技

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俺は新しく来たコーヒーに砂糖を入れて掻き回した。 「寝起きだから聞き間違いでもしたんじゃないのか。」雄二とは全く正反対の声のトーンで話す。 「よく言うだろ。夢には人間の無意識の願望とかが現れるし、とっさの時にもその人間の素が出るって。きっと美里の俺を消してやりたいって気持ちがさっきの言動に出てるんだよ。」まるで美里を目の前で責めているのかのように声に力が入っている。 「それにあいつはお前が知っているように演技がめちゃくちゃ下手だ。だからこそ美里の素が出たんだと思う。」 「そこは確かにそうだな。美里ちゃんの演技は演劇サークル所属とは思えなかった。」 「だろ、あり得る話だろ。」雄二は満足気にコーヒーを飲みながら話す。美里の演技は大学1年生の時から卒業まで全く成長せず下手くそだった。役を演じるということがほとんどできていなかったのを覚えている。 「そこまで考えてんならいっそのこと美里にカマかけたりしてみろよ。お前は美里ちゃんよりも演技上手かったし本音を聞き出せるんじゃないか。」 雄二は少し考えながら「わかったよ。じゃあ今日帰ったら美里に揺さぶりかけてみる。」と言った。 「もしまた何かあったら時間が合えば話しはこうやって聞いてやるよ。」 「悪いな。やっぱり持つものは親友だな。」 「思ってもないようなクサいセリフ言うなよ。」2人でまるで大学時代のように笑っていた。 「今日は話し聞いてくれて大分気が楽になった。じゃあ、お代ここに置いておくわ。」雄二はそう言って店を出て行った。きっと歩きながらどう美里に掛け合うか頭の中で台本を作っているだろう。 俺は少し冷めたコーヒーに口をつけて携帯を取り出した。そしてそのまま美里に電話をかけた。 いつものように美里が可愛らしい声で電話に出た。 「美里、お前は相変わらず演技が下手だな。また素のお前が出てたらしいぞ。」美里は少し笑いながら反省している。俺は何回も殺意を隠す演技を教えても成長しない美里に呆れていた。
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