下手な演技

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「美里のやつ絶対俺のこと殺そうとしてるよ。今度こそ間違いない。」雄二はいつものように喫茶店で俺に怒りをぶつけてきた。 「どうせまたいつもの思い込みとか勘違いだろ。美里ちゃんがお前の事殺そうとするはずないだろ。」 「いや今回は絶対そうだ。恭平の前じゃ昔から態度がいいけど俺の前じゃ性格がガラリと変わってる。それに恭平、お前は気づいていないからな。」 俺はそれも何回も聞いたよ、と言いながらコーヒーに口をつけた。 雄二とは大学時代の演劇サークルで出会い、美里ともそこで出会った。そして大学卒業後雄二は美里と結婚し、美里と一緒に生活をしている。 だが結婚後よく喧嘩や口論をするようになった。その度、雄二は俺に美里の愚痴や文句を言うようになった。 そして最近、被害妄想をしているかのように美里に殺されるといったようなことまで俺に言ってくるようになっていた。 「そんで今回はどうしてそう思ったんだよ。」またいつものことだろうと思い少し呆れ気味に聞く。 雄二は少し興奮しながら口を開いた。「今日の朝、美里と俺がベッドで寝てたんだ。そしたら美里が急に大きな声を上げて飛び起きたんだよ。それに驚いて俺もすぐ目が覚めて起きた。」 「おい、お前まさかたったそれだけのことで今日俺を呼んだのか?」 「そうじゃない。その後、あいつは俺を見るとすぐに声をかけてきたんだ。」 「お前なんか殺してやる、でも言われたのか。」俺はコーヒーを飲み終わってしまい、もう一杯コーヒーを店員に注文した。 「違う違う。あいつは俺に向かって、「あなた、生きてたの。よかった」って言ったんだ。」 「なんだいい話じゃないか。美里ちゃんはお前が死ぬ悪夢でも見てしまったんだろうけど、お前が現実では生きていたから安心したんじゃないか。」 「いや、あいつは、生きてたのと言う前に小声で「まだ」と言っていたのをハッキリ聞いた。きっと美里のやつ俺が死ぬ夢を見たけど起きたら俺が生きていてがっかりしたんだ。そしてつい、まだ生きていたのって言ってしまい、よかったを慌てて付け足したんだろう。」雄二の目にはいつもこういった話をしている時のように目に力が入っていた。
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