好きだから

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「じゃあ戻るかー、颯太のとこでも・・」 見つかったんなら長居は無用だな 「暗いから持ってる?」 懐中電灯を渡す。先を歩こうとすると・・照らしてた灯りが消えて、後ろを振り返った。 「・・まだ・・、」 え? 「まだ・・ここに居たい。」 ・・・ 暗くて表情が解らない 何を言ってる・・? 「・・・、」 実際、そういうのはないって解っている相手でも そんな言い方されたらさ・・ 「颯太くん・・の、ファッションショー・・見たくない・・」 ああ、そういうこと? ですよね。 いや、でも、どうして? 何も言ってこなくても・・その沈黙で重い空気になる 「最後、に・・ドレスって翠さんに言われた。良いの?って・・」 ドレス? ・・もしかしてウエディングドレス? 「じゃー尚更だ。行くぞ。」 踵を返す 「え、橘くん・・」 「早く。俺が変わる。」 ドアに向かう そりゃ颯太が渋るのは当たり前だ 最後にだけ間に合えば、颯太と代わって・・ 急ぎ足で向かおうとしてるのに、 「違うの、待ってっ・・きゃっ、」 椅子と一緒に盛大にコケる音 ・・ったく、だから灯りつけろって 「大丈夫か?」 暗がりの中、駆け寄ってうずくまってる隣にしゃがむと ぎゅっ、と俺のシャツをあいつが強く掴んだ。 「いいの。橘くんが変わったりしてくれなくていいの・・ 私が言ったの。・・だから、・・いい。」 「言ったからって・・・」 そんなの 「俺なら別に・・」 翠には嫌がられるだろうけど、それはどうでもいいことだし。 「良いの・・・。」 お前はそうやって首を振るけど・・でも シャツを握る手がさ、心なしか震えてない? 「・・・皆に・・ありがとうって言われて、少し良い気になった。 颯太くんに行ってあげてって・・カッコつけたの。 ・・でも、やっぱり見たくなくて・・。」 「カッコ悪い・・・私、逃げて来たの、」 「・・うん。」 「ごめんね、橘くんに迷惑かけて・・結局鍵も私が・・」 指先が、柔らかい髪に触れる サラサラの髪は・・まとめてても柔らかいんだ。 呑気にそんな事を思って ぽんぽん、 軽く叩いてんだか撫でてんだか 暗がりで この近さで 好きな女と二人きり 躊躇しなかった訳じゃない それでも 慰めるというか 悲しそうにする その姿をどうにかしたくて あいつの頭を、結衣にするみたいに撫でてやることしか出来ないでいた
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