好きだから

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「・・でも、ありがとう。 橘くんには、・・沢山、ありがとうしかないの。」 あーあ 折角良い感じで距離を開けていられたと思ってたのに。 このまま卒業すればすぐ終わる筈なのに。 そんな事言われてさ、そうやって清々しく笑って これが狙ってやってると思えないから余計腹立たしい 「礼を言うのはこっち。だからその辺で。」 「うん。」 「・・どうせまた、どこかで会うだろ?颯太と一緒に居れば。」 「そう、だね。そう思えば寂しくないか・・」 寂しくないって。 じゃあ寂しかったって事? ほら、こうやって言葉尻を馬鹿な風に捉える俺がいる 言葉一つに振り回されている馬鹿な自分 解っていても、どうしようもない 「私も記念に何かもらいたいな・・」 俺を嫌いじゃないと、都合良く受け止めてしまう ・・こいつが、そんな気がないと言うのは 充分過ぎる位 俺が一番解っているのに。 「いーよ。また颯太に何か言われるわ、」 だから、こんな風に言うしかないだろ。 「・・・そっか、そうだね。」 目を伏せる それがへこんでる様に見えるのも、また俺の都合良い解釈 「・・じゃあ、」 華奢な手が差し出される 「握手。」 ・・・反射的に、ポケットの中の手を握る 「・・・、」 最後だよ 良いじゃん、握手くらい その小さな手に、普通に触れれば良い。 そう思っているのに・・手が出せない 触れたら、またあの時みたいに抱きしめてしまう 掴んだ手を離したくなくなる ・・しまい込んでる馬鹿な考えが全部、見透かされてしまいそうで。 この俺の、駄目な気持ちが流れてしまいそうで。 また困らせる 誰かに責められる 泣かせるかもしれない だから 「・・・最後じゃないじゃん、そういうのは最後の挨拶だろ。」 固まっていた手が、下りる 「何そんなに女子みたいな事言ってんの?」 泣いたり 記念とか、普通の女みたいな。 笑うと、ようやくあいつも笑ってくる 「女子だよ。ほんと失礼だよ。」 「そうだっけ?」 一緒に笑う それでいい 笑顔で、いてほしい。 危ない危ない 卒業に乗っかって、ついうっかり零れそうになる 笑いながら、普通にこうして話せるだけで良かった。 でも、もうそれも終わり。 「ほんと、橘くんてば人を何だと思ってるの?」 何って・・・こいつは 「──颯太の、彼女。」 「・・・え?」 俺が好きになったのは 「──親友の・・大事な彼女だよ。」 それ以上にはならない でもとても大事なもの 「じゃあな。・・・颯太と仲良くやれよ。」 あいつを一人残して階段を降りる ひとつ降りる毎に言えなかった想いを置いていく 好きだと 言えなかった。 言わなかった。 これで良いと思えてるから、 だからこれで良い。 唇を噛んで 俺の、メンドクサイ恋は終わった── ◇◇◇◇◇ next season おわり ◇◇◇◇◇
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