白い服

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 それが誰のものなのかは思い出せないけれど、幼い俺は、親戚の誰かの葬式に連れていかれていた。  葬儀場ではなかった気がする。  多分田舎の一軒家で、大人達はろうそくの明りを絶やさぬよう寝ずの番をしていた筈なのに、俺がたまたま目を覚ました時、周りにいたみんなは全員眠っていた。  寝起きの意識でなんとなく周囲を見渡す。そんな俺の視界で何かが動いた。  疑うことなく視線をそちらに向けると、きっちり閉まっていた筈の棺桶の蓋が少しだけ開いていた。だけどそれをおかしいと思う暇は俺にはなかった。  棺桶の隙間から溢れ出した白い煙。それはたちまち、今棺桶の中にいる人の姿となった。  何かを探すようにこちらを見る。その目と視線が合うより先に目を閉じ、寝ているフリをしたけれど、心臓が高鳴りすぎていて、棺桶から出て来た白い服の何かに見つかってしまうのではないかと俺は怯えた。ても実際は何もなく、葬儀はつつがなく終了して、俺は翌日中に両親と家に帰った。  あの経験がトラウマになっていたのだ。  あれから十年以上が経過し、葬式のことはすっかり忘れていたけれど、俺は自分の恐怖心の理由を思い出した。でも理由が霊体験となると、今後白い服に対する恐怖心の克服は難しいだろう。  そして、この先生きていれば誰かの葬儀に赴く機会は増えていく。  その時俺は平常心を保てるだろうか。  多分、葬儀自体には参列できるだろうけれど、お棺の中は覗けないだろうな。 白い服…完
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