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視線をさ迷わせもごもごと喋っていると、比嘉くんの視線が俺に向いた。
「……今じゃダメですか?」
「っ……今?」
「佐倉さんを困らせたい訳じゃないんです。でも、将来的にじゃなくて……今確かなものが欲しいんです。改めて今、佐倉さんから聞きたいんです。ダメですか?」
子供のように甘えて、俺に何か
をねだる時の彼は本気だ。本当に心から欲しいものがある時。国山の言葉で不安になっているから、確約が欲しいのかもしれない。
俺も彼から離れるつもりはない。きっと彼以外に、この言葉を言いたいという相手も一生現れないだろ。
「……わかった」
俺が返事すれば、比嘉くんは一旦体を起こして離れてくれた。じっと言葉を待ち遠しそうにしている比嘉くんに、俺は見つめられている。
大袈裟に深呼吸して、思い切って声を出せば……
「ひっ、久斗っ……くんっ!」
呼び慣れない呼び方が裏返って発音された。俺らしいと言えば聞こえは良いが、こういう時こそ格好付けたい。
「はい」
彼はそんな俺を笑わないで、言葉を待ってくれていた。もう一度深呼吸し直して、顔が熱くなるのを感じながら口を開いた。
「俺とっ……結婚して下さい!」
静かな部屋で、俺の力の入った声だけが強調された。彼の顔を見れば、また泣きそうな顔をしていた。零れそうな涙は口元を軽く噛んで堪えて、俺を抱き締めて肩に顔を隠した。
「……俺で良ければ……よろしくお願いします」
涙声で、本当に嬉しそうに彼はそう言ってくれた。
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