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ガラスが姫君の歌に共鳴してみせる。その小さく、けれど凛とした共鳴は姫君の歌声に良く似合う。ガラスの響きと姫君の歌が、小さな世界を織り上げる。儚く淋しげな、哀しみに満ちた美しい世界を。その世界に魔物は酔い痴れ、夜は瞬く間に過ぎていくのだ。 空が白み始める直前、月が魔力を失う前、再び魔物は姫君から声を奪う。そして一人、命を失う前に月へと帰る。歌うことさえ出来なくなった姫君は、静かで深い慟哭を。 その繰り返しがもう幾晩と続いたことだろう。…姫君の絶望のうちで。 「どうして私の傍に居てくれなかったの。」 塔からは深緑に染まる森だけが見える。あとは限りなく続く青い空。 どんなに恋人の影を求めても、その人はこのガラスの塔の場所さえ知らぬはず。無駄だと知りながら、今更なのだと分かっていても、あの時、あの瞬間傍に居てくれたのなら、と、姫君は思わずにはいられなかった。 そうしたら、こんなことには成らなかったのではないかと。これほどの悲しみと絶望に包まれること無く、今も、愛しい人の傍に居ることが出来たのではないか、と。 ガラスの塔は固く冷たく、孤独を抱えて聳え立つ。遥かな地平の先に、今は戻ることも叶わぬ祖国を思う度、姫君の頬にはらはらと涙が落ちる。助けに来るものは無い。涙が流れるのは、悲しみ故か、絶望故か。 その繰り返しが幾日と続いたことか。…姫君の悲しみのうちで。     
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