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土曜日の早朝にアパートを出て、ふたたびHの繁華街までやって来た。実家はここから新幹線で三十分ほどだが、節約のため高速バスを使うことにしている。蒸しパンが売っているベーカリーは朝からモーニングを提供しているので、そこで朝食を食べることにした。
店に入るとまだ八時前にもかかわらず、座席はほぼ埋まっていた。こんな朝早くでもお喋りに花が咲く女性たちの間をかいくぐって狭い店内を進み、セットメニューをオーダーしてから空いている奥の方の席に座る。スマホをいじりながら待っていると、十分ほどで料理が運ばれて来た。
プレートには三種類のパンと目玉焼きとソーセージに付け合わせのサラダ、デザートはブルーベリージャムとシリアル入りのヨーグルトと、思わずにんまりしてしまうような豪華さだった。ドリンクのカプチーノには泡でハートが描かれてある。
腹が減っていたので、トーストの上に目玉焼きとソーセージを乗せ、大きな口でがぶりと喰らいつく。パンも塩気のあるものとあまいもの両方があって、特にレーズンパンはシナモンのきいた生地にたっぷりとレーズンが混ぜ込まれていておいしかった。
そうして食べることに夢中だったから、向かいの席に立つ人影にまったく気づかなかった。
「おい」
低い声に、びくっと身体が揺れた。パンをくわえたまま、声の主を見上げると、昨日まで探していたあの男が立っていた。
驚きのあまり目をぱちくりさせている俺の顔を見て、男は目を細めてにやりと笑った。
「なんだよ、鳩が豆鉄砲喰らったような顔して」
「……だって、びっくりした」
「ここ、いいよな」
そう言って引いた椅子にどかりと座ると、長い脚を持て余すように大きく開いた。
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