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 男から意識が逸れ、黙り込んだところにちょうど男のプレートが運ばれて来た。「じゃ、そろそろ」と席を立つと、「ひとりは淋しいから食べ終わるまでそこにいろ」と全然心にもなさそうなことを言われてしまい、仕方なく椅子に座り直す。  男はホットサンドのセットを食べていた。食欲をそそるチーズの香りに、今し方食べたばかりなのに生唾が湧いてきて、ごくりと喉を鳴らした。 「食うか?」  男は笑って半分にカットされたホットサンドの片割れを差し出してくる。一応断わったが、「いいから食え」と促され、おずおずと受け取った。表面が香ばしくトーストされた食パンの間に、ハムとトマトとたっぷりのチーズがサンドされている。とろりと溶けたチーズが絶妙で、あっという間に平らげてしまった。 「さすが大学生。気持ち良い食べっぷり」 「……ごちそうさまです」  言いたいことは全部言ってしまった状況で、話題のひとつも思い浮かばない自分がつくづく嫌になる。黙ったまま伏し目がちになる俺とは逆に、男はブラックコーヒーをゆっくりと啜りながら、愉しそうに俺を見つめている。 「なに、」  視線が息苦しくて、振り払うように言った。 「いや、いい顔になったと思って」 「え?」 「こないだ会った時は半分死にかけたような顔してたのにな」 「そんなに酷かった?」 「エセ占い師の暗示にかかるくらいだから、余程だろ」 「エセ?……じゃああんたがあの時祓ってくれたってのは……」  男がにやりと笑う。 「偽薬でも、要は治ればいいってこと」 「マジで?」  がっくりと項垂れた俺に、男は「冗談だよ」とくすくす笑った。 「祓ったのは本当だ。うちは代々霊能者の家系なんだよ。だからあそこでやっているのは、占いっていうよりは霊視だな」 「ふーん」  霊視という言葉の意味もよく分からないので、適当に相づちを打つ。 「あんたさ……」 「カツラギイクト」 「え?」 「名前」 「……どんな字?」 「カツラが説明しにくい」と言いながら、机の上に指でゆっくりと「葛木育都」と書いた。 「育都って呼べよ」 「いきなり名前? しかも呼び捨て?」 「いいから呼べよ」  口調こそ乱暴なものの、穏やかに微笑んでいる育都に対して、不思議と緊張感はなかった。
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