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「……育都、は、今いくつ?」
「二十六」
「さっきフォトグラファー目指してるって言ってたけど、どんな写真撮るの?」
育都の瞳が、踊るようにきらりと輝いた。
「ひとが好きなんだ。ベッピンでもブスでも赤ん坊でも年寄りでも優しくても醜くても、そういうの全部ひっくるめて、人間を撮りたい」
「……そっか」
「馨も撮りたい」
まっすぐに瞳を見つめられる。突然自分に向いた矛先に、俺は言葉を詰まらせた。
「初めて会った時にそう思ったんだ。撮らせろよ」
「無理」
「どうして?」
「とにかく嫌いなんだ。写真撮られるの、昔っから」
「だから、どうして?」
「どうしてって、……だって、恥ずかしいだろ。わざわざ写真にしてまで自分の顔なんか見たくないし」
そっぽを向いた俺の頭の上に、育都の手が伸びてくる。前に会った時のようにくしゃくしゃと髪を撫でられた。周囲の女性客たちの注目を集めているのは明らかで、好奇の視線が痛い。育都をぎっと睨み付けるも、そんな俺のことなどまったく気にもしない様子で育都はなおも攻めてきた。
「なあ、俺は毎日いろんな場所でいろんな人間の記念写真を撮りまくってるプロだぞ」
「……」
「お前の写真嫌いなんか、一瞬で治してやるよ」
にっと得意げに笑う育都を見つめて、俺は小さく息をついた。
いったい彼のこの自信はどこから溢れ出してくるのだろう。
どうしてこんな風に、相手に拒否されることを怖れず、人と向き合えるのだろう。
「……写真撮られるのが好きになったら、なにか変わるかな、」
答えを求めてはいたわけではない。思いがつぶやきとなってするりと飛び出した。
「絶対に、変わる」
そんな俺の言葉に、育都が力強く応える。見つめるまなざしが、包まれるようにあたたかく、優しかった。
「だから、俺にまかせろよ」
「……」
「なあ」
にっこりと微笑んだ顔に、降参した。無言のまま、俺はこくりと頷く。
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