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「弟がいるんだ」 「ああ、俺より二つ下。あいつは子どもの頃からとにかく霊感が強くて、見たくないものまで見えてしまうから、小さい頃はいつもビイビイ泣いてはくっつかれてたな。爺さんから直々に奥義を伝授されて、今は政治家やら役人やら大企業の社長やら、この国を実質支配してる奴らからの依頼を受けて、全国を飛び回ってるんだ」 「……なんか、本当に映画のなかの世界みたいだ」 「自分の弟ながらよくやるよなって思うんだよ。いくら仕事とは言え、そんな奴らと関わるって考えただけで、窮屈でたまんねえだろ」  そうこう話しているうちに、車は市街地から郊外を抜け、高速道路に入った。一旦おしゃべりを中断して、育都が運転に集中する。  運転席を横目で伺う。せっかちな言動に反して、育都の運転は実に穏やかだ。車間距離を狭めず、流れを妨げない程度にのんびりと運転している。リズミカルにギアを動かすその動作から、運転を心から楽しんでいる様子が伝わってくる。  お茶を飲んでいたら「俺も」と手が伸びてくる。もう一本袋から取り出そうとドリンクホルダーにペットボトルを置こうとした、その手の上に育都の手のひらが重なり、ぐいと引き寄せられた。 「……っ、」  ごくりと喉を鳴らして一口飲み、腕を押し戻される。すこし汗ばんだ熱の余韻が、手の甲にじんわりと残っている。 「馨とファースト間接キス」  にやりと笑いながらそんな事を言われ、一瞬で頬が赤くなった。 「小学生かよ!」  睨み付ける俺の頭に手を伸ばし、「やっぱり可愛いよな」と髪をくしゃくしゃにされる。茹で蛸みたいに真っ赤な顔が恥ずかしくて、俯いたまま育都の好きなように撫で回されていた。
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