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「なんでって、理由なんてひとつしかないに決まってんだろ」
「……」
「お前のことが好きなんだ」
「……」
「一目惚れだよ。悪いか」
完全に開き直ったようなドヤ顔で断言されて、俺はがっくりと肩を落とした。
「……訳わかんねえ」
「あのなあ、恋に訳も理由もあるわけないだろ? 好きだと感じたら、それはもう好きでしかないだろ? 他の感情には置き換えられねえだろ? お前だって好きなヤツいたんだからそんくらい分かるだろ?」
「……」
「『考えるな、感じろ!』ってヤツだ」
「……」
「それから、言っとくけど絶対に軽い気持ちなんかじゃねえからな。太平洋なみにでかい愛でお前の身も心もメロメロに……」
「あーーー!」
俺は叫んだ。呆れていたし、こいつ馬鹿だと思ったし、腹立たしかったし、なによりも、うらやましかった。育都と一緒にいると、うじうじしている自分が本気で馬鹿らしいと思えてくる。暗闇から一気に陽の下に晒されたような感覚に、眩暈を起こしそうだった。
そして、そんな育都が放つ光に、俺はどうしようもなく惹かれているのだ。
「……楽しむって、なにすんの?」
「そうだな。夏だからキャンプに行こうぜ。ドライブもいいし、うまいものいっぱい食って、写真もいっぱい撮る」
「え、写真は嫌だ」
「まだ言うか。……じゃあ、馨はなにがしたい?」
「え?」
不意打ちの質問に、俺は黙り込む。
「お前がやりたいこと、なんでもする」
育都の肩越しに、海がきらきらと煌めいていた。目を細めて、その輝きに見入る。
「……泳ぎたい」
「よし、泳ぐぞ」
「……え、まじで?」
俺の身体から腕を離したかと思うと、即座にシャツとパンツを脱いで、あっという間に育都はボクサーパンツ一枚の姿となった。野生動物のようにしなやかで均整の取れた身体が目にまぶしい。ぼーっとしていたら長い腕が伸びてきて、シャツの胸元を掴まれる。
「自分でやるからいい!」
「いいから、脱がすのは得意だから」
襲いかかる育都から必死で逃げながら衣服を脱ぎ捨て、俺は波打ち際まで走った。
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