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 なるほど占い師かと俺は納得した。確か子どもの頃、隣県の故郷からこの街に家族で遊びに来たときにも、占い師のおじいさんを見かけたことを思い出した。  あの時は母親が「占ってもらおうかしら」と言い出して、散々迷ったあげく「やっぱりやめておくわ」とその場を立ち去った。子どもだった自分には分からなかったが、母親も当時はなにか人知れず悩みを抱えていたのかも知れない。  マントの男は椅子に腰をかけ、頬杖をついてぼんやりと過ごしている。 「やる気ないな、あいつ……」  十分経っても、二十分経っても、客は来なかった。大丈夫なのかと他人事ながら心配していたその時、ふいに彼の顔がこちらを向いた。  マントで隠れた目元は見えない。けれど、口元がふっと緩み、微笑んだのが分かった。 「え?」  俺は首を傾げた。彼が、手招きをしたからだ。辺りをきょろきょろと見回して、呼んでいる相手が間違いなく自分であることを確認する。  席を立ち、少しの間考えた後、マント男の招きに応じることに決めた。人生最悪のいまなら、占ってもらうのもいいかも知れない。いくら取られるんだろ、と下世話なことを考えつつ、俺はマント男に吸い寄せられるように小走りで近づいた。  所在なげに佇む俺に、マント男は低くよく通る声で「そこ座んな」と言い放った。おずおずと腰掛け、男と向かい合う。フードに覆われた目元ははっきりとは見えない。しかし高い鼻筋やほっそりとした顎のラインがきれいで、実はかなりの男前なのではないかと推測する。 「……ええと、」 「名前は?……ここ、書いて」  ぶっきらぼうに差し出されたメモ用紙とシャーペンを受取り、殴り書いた。 「……かおる、いい名前だな」  その言葉に、ずきんと音を立てて心臓が鳴った。同じような低い声で、同じような台詞を吐いた男を直視できず、視線を逸らす。 「……全然。女みたいで、昔からずっと嫌いだった」   吐き捨てるように言った俺の言葉を、男はふんと鼻で笑った。
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