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「育都、……あのさ、」
「ん、」
「昨日は、ありがとう。健に会ってくれて、嬉しかった」
「……」
「大切な友達なんだ。本当のことを言えば、育都にも健のことを知って欲しかったんだと思う。……未練なんて、全然ないよ。俺には、育都がいるから」
「ああ、分かってる」
「運命って、育都が言っただろ。……俺はさ、育都と出会えたことが、奇跡みたいにすごいことなんだって、昨日の健を見て思えたんだ」
「……」
「俺を見つけてくれて、……ずっと待っていてくれて、ありがとう」
育都の瞳をしっかりと見据える。まぶしそうに見つめ返す、その穏やかでやさしい瞳が嬉しかった。
ずっと心のなかで感じていたことを、ようやく言葉にできた。
胸のなかでもやもやとしていた雲が瞬時に吹き飛ばされ、心が晴れ晴れとする。
「健は、いつ出会えるんだろうな」
「そうだな、……そう遠くはない日、だろうな」
「えー、育都ははっきり見えたんだろ? 俺にも教えてよ」
「ダメだね。こっちにも守秘義務ってもんがあるんだよ」
どんなにねだっても育都は教えてくれない。それならと、いつか来るふたりの再会の場面を勝手に想像して、俺はお喋りを延々と続ける。
そんな俺の妄想話を育都は「くだらねえ」と鼻で笑いながら、それでも上機嫌で耳を傾けている。
こんな無為な時間を過ごすことさえ、無上のしあわせが溢れている。
ふたりがいま、ここにいること。
その、すばらしい魔法のような時間を、この奇跡を噛みしめながら、俺たちはいつまでも笑い合っていた。
おわり
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