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「……前から思ってたけど、訊いていいですか?」
「だからもう、敬語はいいから。同い年なんだし」
「僕は葛木くんの写真が大好きで、ずっと憧れていたから、まだいまの状況がうまく飲み込めていないんだ」
はにかんだ笑顔を浮かべた後、一転して挑むような視線で俺を見据えてくる。
「彼を撮らないのは何故?」
「……」
「僕なんか比較対象にならないくらいフォトジェニックだと思うけど、」
「いや、片瀬くんはすごくフォトジェニックだよ。これは割と本気で言ってる」
遮るようにそう言ったら、彼は照れくさいのか、すこし困ったような顔で俺を見つめ返してきた。
「それは、……光栄だな」
「何故撮らないかと言えば、あのひとが撮らせてくれない」
「断られて、引き下がった? 葛木くんが? らしくないなあ」
「だって、……見かけによらず、恐ろしいんだよ」
「恐ろしい、か。……確かに、分かる気がする」
そう言って、片瀬が密やかに笑うと、運ばれて来たゴボ天肉うどんを「今日もうまい」と勢いよく啜っている。
「食べ終わったら、駅まで迎えに行こう」
「ああ、」
店を出て、駅までの道のりを歩く。もうすこしで満月なのだろう、よく膨らんだ月が、きらめく街の天高く、薄紫の夜空に輝いていた。
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