月明

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 K駅の新幹線口に辿り着くと、すでに彼は駅構内の入り口に佇んでいた。  ただそこに立っているだけなのに、その姿は決して人混みに紛れることはなく、いままさに咲き誇る花のような存在感を現わしている。行き交う人びともさりげなく、時にはあからさまに彼を見つめている。  会うなり彼は「腹ぺこだよ」と可愛い台詞を言ってのけて、かすかに漂っていたふたりの緊張を解してくれた。  それなら、と片瀬が連れて行ったのは、やはりあのうどん屋で、どれだけうどんが好きなんだ、と呆れる俺とおでんやぼた餅を突きながら、隣で片瀬一押しのゴボ天肉うどんを上品に啜るうつくしいひとを、ふたり眺めていた。  酒が飲めない三人が集うのだから、その後は当たり前のようにコーヒーショップへと向かった。  椙本さんと片瀬は、自由について語り合っている。  自由であることは、つまるところ孤独なのだと彼らは言う。  確かに、ふたりはそれぞれ異なるかたちで、自由を謳歌してきた人間だった。  そんなふたりに、なにげなくカメラを構えると「え?」という顔をしたうつくしいひとは、しかしそれを遮ろうとはしなかった。 「……いいんですか?」  自分でレンズを向けておいて、そう訊ねると、「なにが?」と逆に訊かれた。 「椙本さんには頼まないのか?」  片瀬の問いに、椙本さんがどういうことだと首を傾げる。 「葛木くんはいま新作の制作中で、友人たちのポートレートを撮っているんです。それで、今日僕が撮ってもらうことになった」 「へえ」 「葛木くんのテクニックがすごすぎて、途中から全部脱いじゃいました」 「テクニシャンだからね、彼は」 「ふたりとも、そういう言い方やめろ」 「椙本さんのことも撮りたいって」 「本人には全然そんな話ないけどな」  ニヤニヤとした笑みを浮かべる彼らを睨み付ける。
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