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話してみると、椙本さんの後輩で、俺の写真を知ったのも椙本さんに紹介されてのことだと言う。
「いつか三人で会おう」という、挨拶のような軽い約束が今夜の集いとなるとは、あの当時はまったく想像もしなかった。
三人での会話は思いのほか楽しく、閉店時間を迎えても、最終列車の時刻が近づいても、まだ話したりなくてその場に佇む俺たちに、片瀬が「僕の家に泊まって行ってください」とすばらしい提案をしてくれた。
「それなら遠慮なく」と俺たちは片瀬の家に上がり込んで、畳の部屋に布団を二つ並べて横になっている。
その俺の隣で「いつもは車のなかで寝るけど、今夜はふたりと一緒がいい」と部屋に寝袋を持ち込んで、同じく片瀬も寝転んでいる。
深夜なので早々に灯りは消してしまったが、満月が近いせいか、あるいはここが街なかだからか、外は明るく、暗闇でもふたりの表情が見てとれる。
性的な部分では奔放だと言わざるを得ない三人が、おなじ部屋で一夜を過ごしている。これが一昔前の俺たちなら、いまごろ組んず解れつの渾沌を繰り広げていたに違いない。
それこそ、自由さゆえの孤独な心をもてあまして。
淋しさを紛らわせるには、肌を重ねること以外、なにも思いつかなくて。
しかし、いまはこうして寝そべっただけで、ぽつりぽつりと語り合い、声をたてて笑っている。
時折鳴り響くバイブ音に頬を緩ませながら液晶画面を眺めたり、そうでなくとも頭のどこかには、いつも愛するひとの面影がちらついて、今頃なにしているだろう、なんて思ったりして、そんな不自由さを時に煩わしいと感じながら、その実言葉にならないほどのやすらぎに包まれている。
そういう夜を、いまこのひとときを、心からいとおしいと思うのは、俺ひとりだけではないはずで、きっとふたりも同じように、この特別な夜を愉しんでいるのだった。
おわり
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