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 翌日の夜、俺は男に会うためにHの繁華街へ向かった。九時前に向かいのコーヒーショップに入り、窓際の席で男を待つ。日曜日の夜だからか、一昨日の夜よりも街は閑散としていた。この人通りではもしかすると営業しないかも、と思ったのは大当たりで、一時間待っても男が現れることはなかった。  その翌日も、さらに翌日も街へと繰り出したが、男に会うことはできなかった。ひょっとしたら金曜の夜限定で占い業をしているのかも知れない。落ち着かない気分で平日を過ごし、ようやく迎えた金曜の夜だったが、ついに男は現れなかった。前に男が出現した、シャッターが降りた向かいの店を訪ねてみようかとも思ったが、考えあぐねた末に結局あきらめた。 「……なんだよ。自分からおびき寄せておいて、とんずらしやがって……」  恨みがましくつぶやいてしまってから、はっとして頭を振った。せっかくネガティブ思考を取ってもらったのに、これでは元の木阿弥だ。 「……うん、そうだ。気分転換しよう。……久しぶりに実家に帰ろっかな……」  大学院へ進学する予定だから就職活動はないが、研究やバイトに日々忙しく、健と付き合い始めたこともあって、実家には正月以来帰省していなかった。高校生の妹とは頻繁に連絡を取り合っているが、「お兄ちゃんが全然帰ってこないから、お母さんが淋しがってるよ」というメッセージが先日届いて、気にはなっていたところだった。  早速「明日帰る」と連絡したら、すぐに妹から返事が来た。 『いつもの蒸しパンよろしくね!』 「待ってる」でも「気を付けて帰ってきてね」でもなく、大好物のおねだりという辺りがちゃっかりとした妹らしい。女子高生らしいど派手な顔文字に脱力しながら、「了解」と返信した。
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