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 「待たせたな」と現れた育都は、スレートグレーのメッセンジャーバッグを肩から下げていた。カメラバッグだろうか、大きくてよく使い込まれた風合いのそれは、背の高い育都の立ち姿にしっくりと馴染んでいる。  裏手の駐車場まで歩く。白い商用車が並ぶ駐車場内で、一際目を引くライトグリーンのレトロな軽バンの前で、育都が立ち止まった。 「これ、育都の車?」 「俺に似合わず可愛いだろ。機材運んだり、時には寝泊まりする、大事な相棒」  荷物を放り込んで、座席に座ったと思ったら、育都はすぐにエンジンをかけて今にも発進しそうな勢いだ。慌ててシートベルトを締めて、サイドミラーを確認した。 「なにしろ古い車だからな。乗り心地は良くねえけど、そこは我慢しろよ」  癖なのだろうか、またしても俺の頭をくしゃくしゃと撫でてから、ハンドルを握った育都はなめらかに車を発進させた。  途中赤信号で停止したところで、育都はオーディオを操作して音楽をかけた。レトロなこの車にぴったりの、軽快なソウルミュージックが鳴り始めて、俺はほっと息をつく。人通りも車も多い中心街を走っているからか、育都はなにも喋らず運転に集中していて、沈黙を息苦しく感じていた。  こうやって車に乗り込んだものの、俺は育都のことをほとんど知らないと言っていい。知っていることと言ったら写真を撮るのが好きなことと、霊能者であること、たったそれだけだ。どういう話題を切り出したらいいのかも分からず、仕方なくぼんやりと窓の外の景色を眺めていたら、「空、青くてすげえ気持ちいいな」と育都が晴れやかな声で言った。
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