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振り返ると、僕の真後ろに並んでいた男の人だった。
「はは、みなまで言うなって。顔にそう書いてある」
ひょろっとした長身で頬がこけ、目の下にくまがある。
くたびれたスーツ姿はみすぼらしさと、歴戦の覇気をまとっているようなオーラを兼ね合わせているな特殊な雰囲気だった。
「あいにくだけど、次はブラック経験者以外は乗れないよ」
「あの、どういうことですか?」
「見ればわかるさ」
『間もなく電車が到着します。白線の内側までお下がりください――』
ホームに到着したその黒塗りの車両の窓には、カーテンがかけられていて中が見えなかった。
それだけでもう、異様さを感じてしまう。
ぷしゅー、と車両のドアが開く。
中には多くの人が倒れていた。
床にはスーツを着た大人たちが、ところせましと転がっている。
中には白目をむいて涎を垂らしている人までいた。
座席も満員。
全員が肩を寄せ合って、顔を上向けて床に転がる人たちと同じく白目をむいていた。
「みんな眠っているのさ」
驚くぽんと僕の肩に手を置いて、男の人は車両へ乗って行った。
ぞろぞろと、僕以外にも電車を待っていたであろう新社会人たちを置き去りにして 、先輩社会人たちが車両へと乗っていく。
「君が乗らないことを祈ってるよ。よい社会人生活を」
ぷしゅー、と車両のドアが閉まる。
そのすぐあとに、何事もなかったかのように定刻通りの電車がやってきた。
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