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どうやって死のうか考えた。けどそれを真剣に考えることが馬鹿だとも思った。朝、コーヒーと一緒に口に運ぶものとして、パンではなくご飯を選ぶくらいには馬鹿だなと思った。ましてやブラックではなく、砂糖とミルクをこれでもかと注ぎ込んだ、もはやコーヒーとは言えぬベージュの濁った液体だ。そもそも死ぬ以外にこの現実から抜け出す手段が見つからない、そんな自分がそもそも馬鹿だ。ただそれくらいに虚しかったのだ。虚しさが泉から湧き出る流れのように僕の中を埋める。清流なんかじゃない、濁流とも言える不快さだった。なぜ虚しいのか、僕は大切な何かを失ったからだ。その何かが大切だと気づくのも失ってからというのも馬鹿だ。それしかない。 その何かがどれくらい大切かと言うと、僕が僕でいるためには欠かせないもの、そう言えば分かるだろうか。魚に水、獣に水、人にも水。そうか、何かは水だったのだ。清廉で、穢れなく、総ての源に通ずる、そんな水だったのだ。ならば、その水のような何かに出会うまで、僕はどうだったというのか。生きてすらなかったというのか。いや、あながちそれも誤りじゃない。自分の人生とやらが一つの物語だとして、他人に売り付ける作品ならば、きっとそれは誰もが目を通さないありふれた面白みのない、路頭に転がる石同然の出来だろう。けれどそんなモノクロに色がついたというなら、きっとそれはその何かに出会ったからだ。そして初めて僕は生きることを実感したのだ。やがてその色が僕を少しずつ染め上げ、幸運にもその色が僕をキャンパスに認めた時、そうその瞬間にだ、その瞬間に既に僕は何かのその色に染められたのだ。水のように美しく清らかな色にだ。心地よかった。その時に僕は初めて、あぁ確かに断言できる初めてだ、初めて僕が僕でいる価値を見つけたのだ。満たされた幸せという味をこの身で知った。柔い温もりも、胸が打ち砕かれるような苦痛も、隣に恋い焦がれてやまない愛が寄り添っている事実も、僕はようやく知ったのだ。そして僕は生まれた。あるべき自分としてここから始まるのだ。そして永遠だと信じた。
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