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小気味良い音がトイレの中に響き渡る。しかし変化は直ぐには訪れない。結果、残ったのは誰も居ない筈のトイレで謎のリズムを奏でる地味男君が生まれた、と。自分で言ってて泣きそう。
そろそろ馬鹿にされるのも大概飽きてきたな。そう思い、踵を返そうとした時だった。漸く変化が訪れたのは。
何かが擦れる音と同時に、扉の赤い表示が青に変わった。なんかセキュリティ緩くね? とツッコミを入れてやりたい衝動に駆られるが、今は置いといて。
何となく鳴らしてしまった喉を合図に、僕はその扉の取っ手に手を掛けた――。
「お待ちしていましたよ、無上満君」
そこに待ち受けていたのは、僕の想像したトイレでは無く――どこまで続くのか分からない地下への階段と仮面の男、ベギアデその人だった。
「ん? どうかされましたか?」
固まってしまった僕を見て、ベギアデが不思議そうに顔を覗き込んでくる。
お面怖いんだけど。
「って違う違う。何というか……さ。想像していたのと違うけど、なーんか許容範囲内というか」
「ほほう。つまりは期待外れ、という事でしょうか?」
「ま、まあ」
何となく、誰が悪いでもないのに申し訳なくなってしまう。大体予想ついてたのに過度な期待してしまってごめんなさい。もう本当に。
だが、そんな低姿勢な僕とは打って変わり、ベギアデは鼻高々といった様子で背を正した。この先にそんな凄いものでもあるのか……?
「ご安心を。この先も期待しなくて結構ですので」
「まあ、だろうね」
期待通りの返答どうもありがとう。
***
地下へと降りる階段は嫌になるほど長かった。それこそ、なんでエスカレーターかエレベーターにしなかったんだよと声を荒げて叫んだほどに。
更に言えば、その先に広がっていた光景も想定内……よりは少し凄いくらいのものであり、何とも報われない結果となった。
恐らく、見立てでは先程いた上の階と同じくらいの広さだと思う。考えていた数十倍もの人が歩き回っており、感情提供ってそんな当たり前のことだったのかよ、というのが感想。
ここへ繋がる階段は僕らの降りてきたところだけでは無く、壁伝いに見て行けば幾つか上へと繋がる階段が見つかる事から複数あることが容易に見抜ける。
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