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突然だが、うちのクラスは〝幸せ指数〟というのが高い気がする。殆どの生徒が毎日笑顔を浮かべ、照れを見せ、時たま喧嘩が起こる。喧嘩と言っても小さなものだが。
人間、人の目を気にせずに喜怒哀楽を表に出すのは少し勇気のいる事だと思う。だが、うちのクラスではその〝目を気にして〟というのが無い。
それも、入学して僅か一カ月足らずだというのに。
だからこそ、僕は幸せ指数が高いと思うのだ。更に言えば、そんな平和な中でも浮いてしまう僕という存在は異質以外の何物でもないのだろう。嗚呼、涙がちょちょ切れる。
「――次は倫理だって自分で言ってただろ?」
「あ、そうか。忘れてた! ってことは教室移動だなー」
何気ないクラスメイトの会話を盗み……耳にした僕は、移動を始めた周囲の波に乗るべく、重たい腰を上げ教室を後にする。
言わずとも分かる事だが、僕に移動教室を共にする友達など存在しない。
何故なら僕はぼっち教の狂信者だから。
***
時は流れ放課後、倫理の先生から頼まれた荷物運びという名の労働から解放された僕は、夕焼けに染まりかけた空の下帰路に着いていた。
基本的に寄り道はしない主義の僕。本来なら既にマイホームで自宅警備に馳せ参じていた筈だったのだが……まぁ、こういう日も悪くはない。何か大人になった気分だ。
自分の両手を見つめ、今日はよく頑張ったと心の中で褒めてやる。こうすることで明日も学校という集団リンチの場を乗り切ることが出来る。言わば〝おまじない〟のようなモノだ。なんか女子っぽいな。
そんなどうでもいい事を考えつつ、歩くこと十数分。
もうそろそろ自宅が見えてくるかな、と思っていた時の事だ。あの変な男と出くわしたのは。
「――貴方の感情、溢れかえってますね……とても豊潤で、甘美なぁ……」
「……は?」
唐突だった。
あまりスマホを見ない僕は、歩くときしっかりと前を向いて進むのだが、何となく。そう、何となく視線を前から横にずらした。
その二秒にも満たない小さな空白の間に、謎の男が目の前に現れていた。
黒く艶のあるシルクハットに糊の効いたタキシード、色味の良い茶色の杖に高そうな黒い革靴。そして、何より目を引くのが――左右黒と白に別れた道化師の仮面。
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