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この男は……? どうやって現れた? 何故そんな恰好を?
疑問を上げると切りがない。僕の知識欲が震え、恐怖が芽生え、動機が荒くなる。
「おやおやおやおやぁ……その歳でこの熟し方、さては――っと、申し訳ありません。私、欲深い人間でしてね。クフッ」
男は仮面の下で癖のある笑いを浮かべたようだ。それは単純に面白いから、といった純粋なものでは無く、何処か人を馬鹿にするような憫笑染みたもので、僕の中で〝怒り〟が僅かに顔を出す。だが今は感情に任せて話す訳にはいかない。こういう不気味な相手にこそ、冷静沈着に……。
僕は無意識に上がってしまう口角を無理やり抑え込みつつ、一つ深呼吸をした。息が震える。
「そ、それで? 僕に何かよ、用事でも?」
「そうですねぇ、そうなりますねぇ。まず、そうじゃ無ければ私、貴方に話しかけていませんからねぇ。分かり切った話ですよねぇ」
何がおかしいのか。男は尚も笑いを噛み締め、演技染みた身振りでそう答えた。
奴の一挙一動が癪に障る。しかし、それが僕の感情を更に揺すってくる。
嗚呼……この男をもっと知りたい、今すぐ離れたい、会話がしたい――っと、アブナイアブナイ。
額からたらりと流れ落ちた冷や汗を右手で拭い取る。
「クフフッ、やはり見込み通りですねぇ。とても私好みな完熟具合ですッ!! 私、今最ッ高に高ぶっていますねェ!! ねェ!!」
急に声量を上げた男に思わず肩が上がる。恐らく、今僕の瞳には軽侮の念が強く出ているだろう。何たってこんな道のど真ん中で気持ち悪い声を張り上げる変態が目の前に居るのだ。興味しか――まただ、また僕の知識欲がッ。
「何でもいいからさぁ……早く理由をさぁ」
震えが止まらない。嗚呼ァ……嗚呼ァ……早くこの時間を。
時間が経つに連れてどんどん呼吸が不規則になっていく。そんな僕を見つめる男は、いつの間にか先程までの朗らかな雰囲気は消えており、不気味一点の独特な空気を醸し出していた。それにまた少し、肩が上がる。
「仕方がないですねぇ。私、あまり時間を急ぐ人間は好きではないのですが……今回は特別、という事で」
肌のひりつく、現代ではまず感じる事の出来ない緊迫したこの状況。冷静さを取り戻した男とは打って変わり、僕の感情は更に熱を上げる。
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