12人が本棚に入れています
本棚に追加
「偽名とか芸名的なやつか。冷静になれば気にする程の事でも無かったな」
我ながら馬鹿な事に時間を費やしたな、と嘲笑を浮かべる。まぁ、冷静になれたのは良かったが。
そこで、更に名刺と同時に男が続けた言葉を思い出す。
『提供した際の報酬と致しましては、その量や質にもよりますが……最低五十万の現金に、提供者が手に入れることが出来なかった感情を少量、という事になっていますので』
んー……。
「やっぱり胡散臭いよなぁ……」
仮に、本当にもしもの話だが、これが本当の話だった場合。僕がいらなくなった怒りという感情を少量? 提供したとして、その報酬が五十万にプラスアルファ僕に今迄無かった感情っと……。
正直、プラスアルファに関してはいまいちピンときてないが、最低五十万っていうのはどうも話が旨すぎると思うんだよな。何しろ、僕が失うものは形あるモノじゃないし、それが少し消失したところで生活に支障はきたさない。というか、そもそもそれを支払うのは依頼者なのかベギアデ側なのか。
どちらにせよ、支払う側に旨味を見出す事が出来ない。
「本当に信じても……」
そう呟き、もう一度名刺に視線を落とす。
表に関しては最初と同じ。あの男の名前が載っているだけ。しかし、これを渡す前にあいつはこの裏面に何かを書いていた。それを思い出したのだ。
僕は手首を返し名刺の裏に目を通す。
――080-xxxx-xxxx 私直通になっております。気軽にお電話下さい――
「ま、そうなるよね」
何となく予想は出来ていた。でなければ連絡の取りようがない。
がしかし、こいつ危機感というモノがないのか……? これ絶対仕事用とかじゃ無いだろ。
隙の無かった相手だけに、少しほっこりしてしまう。とは言っても、これが仕事用の可能性も否めない為、本当の所はよくわからないが。
「あぁ、疲れたな」
大まかにではあるが、今さっきまでの出来事の整理が着いた。
取り敢えずは急ぐ必要も無いだろう。気が向いた時にでも電話を掛ければいいのだ。今は少しでも早くこの意味不明な疲れを癒したい。
肩の力が抜けた僕は、右手の名刺を適当にパソコンの上に放り投げベッドに倒れ込んだ。
「うごッ! ってて……さっき鞄投げたの忘れてた……」
最初のコメントを投稿しよう!