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言われた通りトイレへと歩を進めた。幸いにも、行先が男子トイレで良かった。これが女子トイレだった場合、僕は奴と同じ変態のレッテルを張られてしまう事になっていたのだから。ま、変態と内心ぼやいているのは僕だけかもしれないが。他人の価値観なんて聞いたことが無いからよくわからないし。
耳から離していたスマホをもう一度宛がう。
「着きましたよー。此処からどうするんですか?」
『ん? あぁ、そうですね。それじゃあ一番奥の個室トイレを開いて下さい』
「奥か……っておい」
個室トイレの鍵は閉まっていると赤く表示されるのは誰もが知っているだろう。つまりはそういう事である。
僕は先程よりくぐもった声で続けた。
「中、誰か入ってますけど」
『当たり前じゃないですか、そこにはいつも誰かが入っていますよ?』
「はぁ? なぞなぞか何かですか?」
この返答、流石の僕も頭を抱える。更には電話越しに小馬鹿にしたように笑っているのがとても腹立たしい。
いつも誰かが入っているって……本当にどういうことだよ。
『簡単な話ですよ。私達の隠れ家的お店、つまりはそういうことです』
「よ、余計訳解らないんですが」
『まあまあ。取り敢えず、シャッフル気味に三回ノックして下さい』
「しゃ、しゃっふるって……」
『あー……分りませんかね? ギター持っていたので分かると思ったのですが。何と言いますか、音を跳ねさせたら良いだけです』
「ちょっと待て、何で僕がギター持ってるの知ってんの? 外に持ち出した事ないんだけど」
『素が出てますよー。ささっ、お早めにお願いしますねー』
「ちょっ! って……切りやがった」
全く、結局問題解決にはなっていないんだけど。それよりも、あいつの謎さに拍車がかかった内容だった。でも、まぁ――。
「ここまできたら、多分あれかな」
恐らく、男の子大好き隠し部屋展開でしょう。トイレの壁が実は隠し扉になってましたーとかさ。
こういう初めての場所に行くとき、人間どんな性格であっても多少の緊張はするものだと思う。それは僕も同じであり、だからこそ僕は呼吸を整える意味で一度、深い深呼吸を行った。
「さてと、行きますか」
――音を跳ねさせてノック三回。口で言うとタンタタンといったところか。
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