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平賀は先ほどの応接室を出ると、そそくさ自分の与えられた部屋に戻った。机に置いた缶コーヒーを手に取り、重さで中身を確認すると一息に飲み干した。そして旧世代のスマホを手に取り今回の実験のライブ映像を見始めた。
元々平賀は宇宙開発局の研究者であった。生粋の研究屋で研究に没頭し開発室に寝泊まりするような男であったが、突如総理大臣秘書官という平賀には興味の無い分野の役職に任命されてしまった。
平賀自身辞退する事を当時の所長の杉田良平に申し出たが一蹴され、渋々秘書官になった。秘書官になってからは総理の宇宙開発に関する発表の原稿作成が主な仕事となり、退屈な毎日を過ごしていた。
「杉田…あの時お前が考えた星間移動も可能となるエンジン…かつての原案で行くなら無茶だ。」
平賀は技術者としては成功して欲しいと思う反面、かつて自身が研究していた分野で他者が成功するのは悔しいと思っていた。そしてふと笑みがこぼれた。
「まだ悔しいなんて思うことが出来たなんてな…技術者の端くれとして無事成功を祈るよ杉田…」
かつての研究メンバー達が写った写真を見てそっと呟いた。
この実験が平賀自身、いや世界を大きく変えるとはこの時誰もが予想しなかった。
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