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二人がエレベーターを降りると偶然にもそのホールから病室へ向かう廊下を歩く父親の後姿があった。
「おとうさん!」
「なんだか幽霊みたいだね」訝しげに母親が言う。
猫背で両手を前に垂らして老人特有な小刻みな歩幅で足を進める姿をみて、
思わず母親が言った言葉だった。
父親はこんな歩き方をしていただろうか?と裕子は自分に聞いた。
こんなふうでは無かったよ―
裕子と母親は後ろから早足で近づき父親の隣に並んだ。
「おとうさん、
今日の具合はどうですか?」母親が声を掛けた。
父親は横目で二人を確認すると笑顔も無しに答えた。
「だいじょうぶ」聞き取り難い、
か細い返事が返ってきた。
「どこに行ってきたの?」裕子が聞いた。
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