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ジョギング
1
裕子は多摩川の堤防をジョギングしながら最近の出来事を思い出す。
一番の心配事は父親のこと―
土曜日の午前中、
自宅近くの多摩川を走ることが習慣になっていた。
始めたきっかけは―
多摩川の堤防には走りやすいサイクリングロードがある。
裕子の家は多摩川から石段を50mほど登った丘の途中にある。
石段の両脇には木が生い茂り太陽の光を遮っているが、
石段を降りた辺りから先は急に木が無くなり多摩川が綺麗に見渡せた。
裕子はこの少し暗い石段から明るい場所に出るこの瞬間が好きだった。
そこから堤防に登ると左右にアスファルトで舗装されたサイクリングロードが続いている。
最初はこの堤防のサイクリングロードを散歩のように歩くと気分が良かった。
だけど冬に歩いていると寒く、
そこで少し走ってみたら意外に気持ち良かった。
―それから走るようになった。
今、
そこに吹く風は冷たく感じる季節になっている。
走っているときは何も考えないことが普通だった。
だが、
ここのところは違った。
繋がった思考ではなく、
自分が見た光景が所どころ走りながら頭に浮かんでは消える。
光景だけではなく誰かが喋った言葉が思い出されることもある。
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