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夢中で話していたセアラは、夫に中断されて驚いた。ちょうど、ブードゥー教について、ニューヨークから南下してきた彼に説明しようとしている時だった。
彼は普段、そんなことはしない。驚いて、セアラは彼を見つめる。
「知ってるよ。おれ、従軍中にムラートの女にまじないをかけてもらったんだ。そんで、ほら」
自分の知っている南部の風習に、彼は嬉しそうに答えた。
彼はおもむろにポケットから汚れたグリグリを取り出した。
セアラは恐怖で顔が引き攣り、鳩尾が冷えた。夫の顔が、あの家にあった人形にも見える。木彫りの、表情の乏しいブードゥー人形のように。瞳だけがギラギラと輝き、表情が霞んでしまった様だった。
なんでそれを、あなたが持っているの?それは確かメアリーのものだったはず。そして、前夫が死の淵まで未練がましく手にしていたもの。
「グリグリを作るのに時間がかかるんだろ?願掛けたりさ。で、おれが戦争で三番目に殺す相手が持ってるから、それをもらえって魔女が言うんだ。そんなバカな話があるかって、最初信じてなかったんだけど、失敬した敵のコートの中からこれが出てきたときは驚いたよ。戦闘中だったし、寒くて死にそうな夜だったから、その南部人には悪いなって思ったんだけど…」
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