第17章 夢のかけら

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酒に弱い雅紀は、アルコール度数の低いカクテルを舐めながら、話の聞き役をしてくれた。普段、仕事ではお目付け役のような年寄りに周りを固められ、自分より年下の青年と話す機会などなかったから、こちらの話に興味津々に相槌を打ち、熱心に聞いてくれる雅紀の存在は新鮮だった。 ほんの気紛れで、暇潰しの相手のつもりだった雅紀との時間が、自分の中でとても大切なものになっていくのに、そう時間はかからなかった。 バーで飲んだ後も、雅紀はなかなか帰りたがらなかった。お互いそんなつもりはないと言いながら、ごく自然な流れでそのホテルの1室に泊まり、肌を重ねた。出会ったその日に相手と寝るような軽い青年には見えなかったが、雅紀は人肌に飢えていたようだった。互いの寂しさが共鳴し合って始まった、2人の関係だった。 夢の中で隣を歩く雅紀が、穏やかに笑う。大きな瞳を真っ直ぐにこちらに向けて、自分の問いかけに一生懸命答えてくれる。 『やっぱりおまえは、俺のことが好きなんだな、雅紀。恋人と思っていなかったなんて、嘘だったんだよな?』 問いかけた途端に、雅紀の顔から笑みが消えた。 哀しそうな顔。今にも泣きそうだ。 見知らぬ街角の風景が、崩れていく。 気がつくと、辺りはいつの間にか、白一色の世界になっていた。 『雅紀…』 呼び掛けて、彼に歩み寄ろうとした。 ダメだ。近づいているはずなのに、どんどん彼が遠くなっていく。 『行くなっ。雅紀っ』 彼は哀しそうに、首を横に振った。 伸ばした手は…届かない。 雅紀の姿が白い靄の中に消えていく。 「雅紀…っ!」 貴弘は、自分の出した大声で、夢から覚めた。 「貴弘」 声がした方にのろのろと視線を向ける。父が…桐島大胡が心配そうに顔を覗き込んでいた。 「……父さん…」 「気づいたか。…気分は…どうだ?」 大胡の後ろに白い天井が見えた。貴弘は目だけ動かして周りを見回し 「ここは…どこ、です?…病院…?」 「ああ、そうだ。病院だ。…何があったか…覚えているか?」 頭の奥がやけに重たくてぼーっとする。 何が…あったか…? 俺はどうしたのだった? 何故…病院に…? 白い天井を見つめて、しばらくぼんやりと考えていた。 ふいに、総一の狂ったような笑い声がよみがえる。貴弘ははっと目を見開き 「…っ。ま…雅紀っ雅紀は何処ですっ」
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