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第1章.月が見ていた
墓地の横にある公園に行くと、2人はベンチに腰をおろした。
墓地や公園には人影はなく、目の前の駐車場には車が1台駐車してあるが、人の姿はなかった。
暁はポケットから煙草を取り出しかけて、ふときょろきょろと周りを見回し、駐車場の端に自動販売機があるのを見つけると、立ち上がり
「何飲む?コーヒーでいいか?」
雅紀は顔をあげ、泣いた後のまだ赤い目で、暁を見上げて微笑み
「俺も一緒に行く。トイレにも行きたいから」
そう言って立ち上がり、笑って頷いた暁の横に、並んで歩き出した。
風はまだちょっと冷たいが、綺麗に晴れた空には、うっすらと白い昼の月が浮かんでいる。
公園のあちこちに植えられている桜は、温泉街にあった桜と、同じぐらいの咲き具合だった。
駐車場を横切って、雅紀は暁と別れてトイレの方へ向かった。暁はそのまま自動販売機の方へ歩いていく。
ふいに車のエンジン音がした。
…あれ…さっきの車、人が乗ってたんだ…
雅紀は何気なく車の方を振り返った。
「え…?」
走り出した車は急激に速度をあげて、何故か出口の方ではなく、暁の方に向かっていく。
雅紀は息を飲み、咄嗟に暁の方へと走り出した。
「暁さんっっっ!」
雅紀の叫び声に、暁は驚いて振り返った。
こちらに向かって走ってくる雅紀。
そして、目の端に映る1台の車。
車は真っ直ぐに自分に突っ込んでくる。
このまま雅紀が自分に辿り着けば……。
暁は雅紀の方に向かって走り出した。
自分を庇おうと間に飛び込んできた、雅紀の腕を掴んで、思い切り引き寄せ抱き込んで、車に背を向けるようにして、脇へ避ける。
よけきれずに車に当たり、その衝撃でふっ飛ばされた。
咄嗟に雅紀の頭を庇って、コンクリートの縁石に、ガツンっと頭を打ちつける。
全てがまるでスローモーションのようだった。
自分の腕の中からもがき出て、悲鳴のような声で自分の名を呼ぶ雅紀に、何か答えようとして、そのまま全てが、ブラックアウトした。
……あの時と同じだ。詩織。俺を庇って逝ってしまった可哀想なおまえ。
でも今度はちゃんと守れただろ?
俺はちゃんとおまえを守れたよな?
なあ……雅紀……俺の大切な……
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