カレーと優待と雪乃さん

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カレーと優待と雪乃さん

 生徒がみんな帰って行った。    講義室は嘘のように静かになっていた。  ぼくは一人で後片付けをしている。    頭の中はきょうの取引の反省でいっぱいだ。    売るタイミングさえ間違えなければ。    そうすれば、もう1000円多く利益が出せていたのに。    たかが1000円。されど1000円。    くそー!    なんてことを考えながらテーブルを拭いていると、廊下から強烈に床板のキシむ音が聞こえてきた。この音が聞こえたと言うことは、誰かが来たということだ。    こんな時間にやってくる人と言えば、きっと?    やけに滑りの良い引き戸がススッと開き、小柄な女性が姿を現した。 「雪乃さん!」  この『株の塾』の先生の一人、雪乃さんだ。 「来てくれたんですか!」 「時に、桜井さん、ご存じですか?」  前ぶれも無くしゃべり出す。それがいつものこの人だ。  ぼくは雪乃さんのことを、マイペースで、真面目で、頑固な人だと理解している。 「ご存じって、なんでしょうか?」 「シロセ通商という会社です。ご存じですか?」  どうやら株の話のようだ。 「いやぁ、聞いたこともない会社ですね」     
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