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そして夕方、実家の前では。
「あいつ遅いなあ。何をしてんだよ」
もうすぐ5時半になる。すると向こうから、テクテク歩いて来た。「おい!何してんだよ。遅刻だぞ」
おれが注意すると「ちょっと本屋で立ち読みしてたら、遅くなったんだよ」と悪びれる様子もない。
漫画ばっかり読みやがって!自分に呆れる自分であった。そして家に入るとお袋がいた。
「まあまあ、いつもヒロキがお世話になってます」
とお辞儀をした。
お袋は誰にでも優しかった。しかし、そのお袋も20年後には亡くなるのだ。
「あら?何か雰囲気がヒロキと似てる気が…」俺はドキッとした。さすがはお袋だ。
「気のせいでしょう。ははっ」と気をそらして2階に上がろうとした。するとお袋は「もうご飯が出来るので、食べてからにして下さいな。今日はおでんですから」と居間に通してくれた。
うわー!懐かしい。8畳の部屋の真ん中にこたつがあり、テレビにタンスと並んであった。3人はおでんを囲った。
俺は勉強が、将来いかに大事か演説の如く喋った。
お袋はニコニコしながら聞いていた。ヒロキは、厚揚げばかりをムシャムシャ食べている。「いくら好きでも、厚揚げばかり食べるなよ」そう俺が言うと
「え?何で知ってるの?」とヒロキは驚いていた。
「そ、そりゃ見てたら分かるよ」俺は慌てて言った。するとお袋が「でもね、勉強が全てじゃないと思うの。そりゃあ、出来るに越した事はないけれど、
人を思いやる気持ちが大切なのよ」と言った。
「それが出来る人は、きっと他人からも愛されるはずよ」それはお袋が、亡くなる前にも聞いた言葉だった。
俺は自分の間違いに、薄々気付いていたのだ。
なのに俺は他人のせいにして、勉強のせいにして逃げていたのだ。
「ヒロキ君、お母さんの言う通りだ。この言葉の意味、よく覚えておくんだよ」俺はヒロキを見つめた。「さて、俺はそろそろ失礼します。どうもご馳走になりました。」
「もう帰るんですか?」お袋が言うと「おじさん、勉強はいいの?」とヒロキも聞いてきた。
「もう遅いからな、また今度な」俺はヒロキの頭をそっと撫でた。そしてお袋の顔を見た。
まだシワの少ない、お袋の顔を目に焼き付けておこう。…お袋…お元気で。
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