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玄関を出た俺は、懐かしむ様に町を歩いた。
すると突然、またあの甘い匂いに刺激された。
意識が遠のいて行く。これで良かったんだ。
置き忘れた時間を、取り戻せたような気持ちになれた。ありがとうお袋。
気がつくと、化学工場のあの部屋だった。
「あれ?やっぱり夢だったのか?」俺はタイムカードを押して、工場を後にした。さあ、我が家に帰ろう。とは言っても、1人暮らしの小さなアパートだ。
するとアパートの前で、手を振る白髪混じりの小柄な女性がいた。「あなたお帰りなさい。お勤めご苦労様です」と俺に笑いかけて来た。「え?誰?」
俺は訳が分からなかった。
すると突然、頭痛が俺を襲った。
「うわっ!何だ?痛ててっ」苦痛でうずくまってしまった。まるで記憶が改ざんされるみたいだ。
頭痛が治り起き上がると、そこには昔、別れたはずのユウコがいた。「大丈夫?あなた」と心配顔だ。
きっと過去に戻り、何かの影響で未来が変わったのだ。「若い頃と変わらないな」俺はユウコに言った。本当にそう思った。
「嫌だわ。もうシワだらけよ」ユウコは自分の頬をさすりながら「さあ、部屋に入りましょう。ご飯出来てるわよ」そして俺はユウコを見た。
「ありがとうな。こんな我儘な俺に付き合ってくれて」俺は初めてユウコに礼を言った。
「何言ってるの。あなたはお義母さんに似て、優しい人よ」
そして2人は、ゆっくりとアパートの階段を登って行った。
終わり
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