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お父さんが横にならんだ。
なにか話でもするのかと待っていたけど、なにも言わない。
静かだ。
気になってとなりをたしかめると、お父さんは、ゆっくりと頭を動かしていた。
それも、空を見て。
なにかを探しているみたいだ。
なんだろう?
正面を見上げたら、まともに太陽とぶつかってしまった。まぶしさに目を細めたとき、肩をたたかれた。
トトンッと、はずむようなリズムで。
「ほら、あれ」
お父さんが指さした先には、水色のキャンバスに滲み出てきたみたいな、透けた白い月がうかんでいた。まん丸だ。
「人は死んじゃうと、お星さまになるって、知ってるかい?」
聞いたことがあるような、ないような。あいまいに、うなずいた。
「お母さんの名前、美月だろう」
子供ながらに、お父さんのことをカッコイイと思ったことがなかった。
お父さんの顔や体つきが頭にうかぶたびに、絵本に出てくるころころとした、コミカルなカバを想像した。
「漢字だと、美しい月って書くんだ」
人さし指で空に文字を書いている。その文字の先には昼間の月。
「お母さん、睦美のこといつも見守ってるから」
もう。お父さんったら。
目のまわりがじんわりと熱くなって、白い月がにじんだ。
無理して、メルヘンっぽいこと言っちゃって。似合わないよ。
お母さんがいなくなってから初めて、わたしの口もとがほころんだ。
わたしは次の日から、学校に行くようになった。
へへ。昔のこと、思い出しちゃったな。
今日はがんばって、ごちそうでも作るか。
お父さん、今日、早く帰ってくるかな。いっしょに、ビールでも飲みたいな。
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