第一章

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第一章

 …さて皆さん、蒸し暑くなって来ましたね。こう言う時期は、ちょっと背筋が寒くなるような話、聞きたくありませんか?  例えば、貴方の傍らで眠っている猫、それが、突然人間の言葉を話し始めたとしたら…?しかも、その内容が、普段食べている猫缶が不味いだの、もっと外に連れて行けだの、やたらと所帯染みた話ばっかりだとしたら?  全然怪奇でも何でも無い、単なる俺の日常風景じゃないか!と言う訳で、俺はいま、蒸し暑い四畳半でミー(正体は敵性宇宙人)と絶賛口喧嘩中であった。  「大体にゃ、お前が『ひーろー』とか言うものに変身して自己満足に浸れるようになったのは、誰のお陰だと思ってるにゃ!」うっ!それを言われたか。確かに、そこを突かれると俺は弱い…。こちらが言い淀んだのを見て、ミーは嵩にかかって攻めてきた。「人から借りたものをパクって好き勝手やっておいて、返しもしないってのは地球人の倫理観的にどうなのにゃ?」  「ま、お前の考えていることくらい、僕にはお見通しにゃ。」ミーは勝ち誇ったように言う。「お前たち地球人にとって、我々は敵。預かっている備品を返したら、何をされるか解らない。おおかた、そんな所だにゃ。」  「む…良く解ってるじゃないか。」  「うにゅ。それでにゃが、はっきり言って、僕はこの星での暮らしに、まあまあ満足してるにゃ。ここで一日ゴロゴロして、好きなテレビ見て音楽聞いて…(何だコイツ、俺が居ない間にそんな事をしていたのか。)食べ物だって、もう少し変化があれば文句は言わないにゃ。人のものを勝手に使っているんだから、それくらいの対価は当たり前にゃ。」(コイツ、妙に地球人の常識に詳しくなってやがる…。)  そんな訳で、俺はミーが持ってきた備品のうち、使って差し支え無さそうなものに関しては返してやる事にした。甘いと言われりゃ返す言葉も無いが、もうミーと同居して、かれこれ三ヶ月は経とうとしている。情が移った、いや、伝染ったのだ。だが、地球を売ったつもりは、無い。たぶん…恐らく…。
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