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彼女のところまで行くと、夕日でできた僕の影が彼女の座るベンチの上に落ちた。 「はい。何でしょう?」 なぜか声が上ずった。カラスが夕方らしく鳴いた。彼女は目を丸くして、それからクスクスと笑った。 「いえ、よくお見掛けするので、今日思わず呼び止めてしまいました。どうしましょう。そうね。せっかくなので、私の話し相手になってもらいましょうか?」 なんだ、この人……。僕は理解が追いつかず、黙り込んだ。 「おそらくなんですが」と彼女はマイペースに続けた。「今、私にはあなたしかいないと思います。話だけでも聞いてもらえると、嬉しいんですが……」 本当によくわからない理屈をこねられ、僕は返答に困り果てた。彼女以外の、例えばベンチの木材の傷み具合や茂みの静けさ、風に他愛(たあい)もなく揺れ踊る木の葉の音に気を()らして、それから彼女を見た。彼女の黒く澄んだ瞳が僕をじっと真っ直ぐに見つめていた。どきりと心臓が鳴った。目が離せなくなった。ごくりと(つば)を飲み込んだ。 「わかりました。話くらいなら」 彼女の目力というべきか、僕は彼女の不思議な力の前に根負けした。 「ありがとう」 彼女は嬉しそうにお礼を述べ、手で隣に座るように促した。僕は緊張しながらも彼女の隣に座った。
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