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「私、筒島(つつしま)かぐやと言います。筒の島のかぐや姫。覚えやすいでしょう?」 「確かに覚えやすいですね。それに、いい名前だ」 「ありがとう」とまた彼女は嬉しそうに微笑んだ。「あなたの名前は?」 「僕は遠滝(とおたき)凪秋(なぎあき)と言います。遠くの滝に、(なぎ)の秋」 「なぎ?」 「風のないことを意味する凪という文字です。『風』という漢字の中の部分を『止』に変えたやつです」 へぇ、そうなんだ、と彼女は素直に頷いた。彼女はすぐに心を許すタイプなのか、初め使っていた敬語はなくなっていた。それでも僕は気にせず、名前の由来も口にした。 「母が秋に生まれた僕に、紅葉がふわりと落ちる様子を名前にしようといろいろと悩んでつけたそうです」 「そうなのね。それだけでも、お母さまがあなたを大切にしていることがよく伝わってきて本当に素敵ね」 「そうですね」 僕は彼女に(なら)ったように微笑んだ。それとともに、僕は母のことを考えた。もういない母のことを。優しかったと思う漠然な記憶があった。それが僕の小さな救いになっているように感じた。しかし同時に、母がいないことが、どこか僕の心の中で欠落した部分のようにも感じた。それでもまだ、子供の僕にはそれがあまりにも輪郭のぼんやりとしたもので、感情の何かに変わることはなかった。 「ところで、筒島さんは……」 「かぐやでいいよ」 「……かぐやさんは、ここでいつも何しているんですか?」 「知りたいの?」 彼女は突然、僕の顔を覗き込むようにして聞いてきた。僕は彼女の近さと柔軟剤の香りにたじろいでしまった。僕は目が泳いだ。 「嫌なら、言わなくていいですよ」 「じゃあ、嫌じゃないから言うわ」 「なんですか、それ」 僕は苦笑した。
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