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「暴力はいつもさりげない日常から始まっていると思うの」
しかし、そんなことを彼女は言い出したから、僕は肩透かしを食らったような心地がした。
「というと?」と僕は彼女の持論の続きを促した。
「当たり前という考え方で生きることが、そもそも暴力の始まりだということに、みんな気付いていないの。これをするのが当たり前、あれをするのが当たり前。どうしてそれができないの? 考えれば、わかるでしょう? その言葉の数々が私のように当たり前ができない人に積み重なっていくの。当たり前がわからない私にどんどん積み重なっていくの。
他の人と違うから、いつも当たり前に振舞うことを考えてしまって、同じになろうと努力してしまう。でも、どれだけやっても、上手くいかない。それが、周りに迷惑になる。それが申し訳なくなって、より一層、私を混乱させて当たり前がわからなくなってしまうの。悪循環になるのよ。特に人に対して、迷惑をかけまいと人一倍に心を砕く人は、そのスパイラルに飲み込まれてしまう」
僕は、彼女の話に心を奪われていた。興奮を覚えすらした。当たり前だろ、と言われ続ける非情な毎日に、僕は苦しめられていたんだ。彼女は僕の欲しがっていた救いの思考を持っていた。輪郭を渇望していた僕の中の概念を、彼女はくっきりと持っていた。
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