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「だから、私ね」と彼女は、急に恥ずかしそうなトーンになって、僕は酔い惑いそうな衝撃から我に返った。「そのことを伝えられるような先生になりたいの。学校に行けない身体だけど」
「いいと思う、すごく」
「本当に?」と彼女は切実な色を帯びた綺麗な瞳を僕に向けた。
「本当にそう思う」と僕は念を押すように答える。「叶えたい夢を持てるのは、たぶんすごいことだと思うんだ。だから、何があっても進むべきだと思うよ」
僕は熱を帯びた言葉を彼女に投げかけた。僕のような不幸な存在を少しでも減らしてほしいと願いを込めた気持ちが、そのまま彼女を応援したいという感情になっていた。
夕日は沈んでいた。日の光を恐れていた虫たちの声が、脅威から解放されたように一斉に鳴き出した。それと同時に、もう彼女とはお別れなんだという思いが、僕の心を締め付けた。もっと一緒にいたい。
「じゃあ、そろそろ帰らないと」
彼女はベンチから立ち上がった。僕はどう言えばわからずに、ただその動きを眺めていた。
「あ……」
彼女が唐突に声を上げた。僕は何事かと思い、彼女の視線の先を見た。
「あ……」と僕も声を上げた。「光だ」
竹に灯る光だった。竹取物語だった。
しかし、もちろんそこには竹などない。夜になりつつある公園に現れた蛍の光のような淡い灯がふわふわと気まぐれに浮いていて、そこにかぐやという少女が立っていただけだ。それらが僕にかぐや姫を連想させた。その光景は今でも鮮明に憶えている。
そして、その出会いが僕にも夢を与えることになった。教師になる夢を。僕は彼女のようになりたいと思ったのだ。
しかし、それと同時に、その日を境に彼女は姿を消した。
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