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僕は安堵した。荒れた息を整え、慈しむようにその光る竹に一歩ずつ近づいていく。蛍のように儚く、そして温かな光だった。しかし、周りを何度も見回したが、彼女の姿は見当たらなかった。ただ、光る竹が僕を導くように灯っているだけだった。
竹取の翁は光る竹の中からかぐや姫を見つけた。僕はそれを思い出す。彼女は光る竹の中にいる。僕は翁のように彼女を見つけるはずだ。
僕はさらに光る竹に近づいた。手の届く距離まで。そして、僕は手を伸ばした。光は手に当たり、温かく包んでいく。まさに、その手が竹に触れる瞬間だった。
僕は手を止めた。
唐突に、現実的に、当たり前に、僕は思う。
竹の中を見るには、方法がない。
素手で竹を切れるわけがないだろう。そんな当たり前のことに、僕は気付いた。これじゃあ、彼女を見つけることができないじゃないか!
僕は後退る。そして、絶望と疲労で後ろに倒れる。地面は湿気ていて冷たかった。視界には薄暗い竹藪の合間に月の光があった。満月の光だ。かぐや姫が月に帰る満月だ。
『翁おきなが善行を作ったから助けにと』かぐや姫が月から地上に下ろされたの。
僕はふと彼女の言葉を思い出す。それから、自然とその後に続く物語を思い出す。翁は生まれ変わったと月の人に告げられ、かぐや姫は月に帰ってしまう。それが、僕には翁は悪い方に生まれ変わったのではないかと見てしまう。
もし、翁が善行を続けていれば、かぐや姫は月に帰らなくて済んだのではないか。
なら、僕の善行はなんだ?
輪郭はぼんやりしている。彼女は輪郭をくれるのに。僕にはそれが必要なのに。僕は善行をわからずにいる。
みんな、眠っているの。
みんな、忘れてしまっているの。
彼女の言葉が頭の中で響いていた。
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