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「で、その格好ですか」
季節は初夏。昼間は暑くもあり、でも夜になると肌寒くもあり。
つまり、オシャレ音痴にとって一番難しい季節なのだ。
「だからってそれ。しかも黒」
「Tシャツにパーカーよりマシでしょ?」
「……どっこいどっこいじゃないですか」
「そんな!」
悲鳴に似た叫びをあげる。
ファッションの難しさに混乱した私は、オフィスで通用するような飾り気のないスーツを着て来てしまった。しかも黒。一応スカートだけども……。
対して永田は年相応のなんだかこじゃれた格好をしていた。
へー、そのジャケットかわいいね、え?テーラード?なにそれ? みたいな。
釣り合いから考えると、年下の永田が浮きまくる。
保険の勧誘かな?
「先輩、この後合コンですよね? それもこのままの格好で行くんですか?」
「え、だめ? やっぱだめ?」
「だめでしょ……」
はぁーぁ。でかいため息をついて、永田がこれでもかと悲しい顔をした。
確かに友達の紹介という雰囲気ではなくなってしまうかも。
「いくら持ってます?」
「えっ……と。あまり持ち合わせは」
「カードは?」
「お酒飲むときは失くしたら困るから持ってきてないの」
「……そうですか。このバカ」
永田くんはいっそ爽やかに笑いながらディスってくる。
「まずは服、買いに行きましょう。買ってあげます」
「ひぇえ?! い、いいい、いいよ!」
「ダメ、買います。なぜなら、一緒に歩くのが恥ずかしいから!」
がーん。
「これはプレゼントですが、先輩の好みは聞きません。人形になって下さい」
「はい……」
申し訳なさと居たたまれなさで私は小さく縮こまったまま、永田に手をひかれて店を何軒かハシゴし、着せ替え人形の任務を全うした。
正直、中のシャツを可愛いのに替えたら問題ないのではとか思いつつ、黙ってお任せした私もどうかとは思う。
でも、男の人に服を選んでもらうなど、生まれて初めての経験だったのだ。
私はちょっとした好奇心から、永田に身を任せた。
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