1.はじまりは一生の不覚

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 染谷(そめや) 芽衣子(めいこ)、29歳。  お局と言われる年齢ながら、昨今は30代の女子社員など珍しくもなく、会社では当たり障りのない無害な先輩として恙無く、地味に、コソコソと生きてきた。  そんな私が休憩室の辱めにあったのは物凄く珍しいことで、話題の中心になり変なテンションになったからなのか、顔の良い若い男性に詰められて緊張したからなのか、我ながらいらんことを言ったと思う。  まさか、休憩室で何気なく行われた後輩女子との軽い恋愛話に、あんなに食いつかれるとは。  たかだか彼氏と別れた、という言葉に、近くに座っていた永田くん含め数人が質問してきた挙句ああなってしまったのだ。  私の元カレ、通称『かーくん』は所謂ヒモだとは思っていた。  だが、まさか世間一般では彼氏ですらなかったとは驚きだ。  『10年付き合ってた彼氏がいました』という、たった一つの誇りの様なものが、粉々に砕け散った。  どうやら私は10年間、ちょっと大きめなペットを飼っていただけらしい。  永田の『理想の女は処女』発言はすっかり掻き消えて、その日以来、私への同情が一身に集められていた。     
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