8.永田くんと恋人ごっこ

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「じゃあ、また来週来ますからね」 「うん、お疲れ様ぁ」  日曜日の朝。  朝食を済ませた私達は、お互いの自由時間のために早めに別れる。  私には特に予定はないけれど、永田にはあるだろう。引き止めたりせずにサッパリと見送る。 「その、お疲れ様って、やめません?」  玄関で靴を履く永田が、ふいに振り返って言った。 「え、なんで?」 「なんか仕事みたいじゃないですか」 「そーかな。そーかぁ」  言われてみたら、そうかもしれない。  じゃあ、どうしようかな。 「恋人っぽくお願いします」 「恋人っぽく……」  うーん。恋人かぁ。……そうだ! 「永田くん、行かないで」 「え」 「帰っちゃやだ。もう一晩泊まってって」  背伸びして永田の首に腕を回すと、上目遣いに見つめて言ってみる。  恋人なら一回引き止めたいよねー。あはは。 「なーんちゃっ……て……あれ? 永田くん?」 「もうやだ、先輩やだ」  永田は顔を両手で覆って、泣きそうな声を出した。  どうした、ビックリしたのか? めんごめんご。  私は永田から手を離すと、一応、謝った。  いつも私が君にやられてることだけどね? とは、今は黙っておく。  永田は顔から手を離すと、不貞腐れながらこっちを睨んだ。 「いってらっしゃいのちゅーは?」 「ありません!」  調子に乗るな!  私が怒ると、永田はへへっ、といたずらっ子のように笑う。 「じゃ、またね」  そう言って、頭をくしゃくしゃと撫でていく。  ──これで、寂しくないでしょ? また一週間がんばってね。  そう言われているようで。  こんなんじゃだめだと、いつも思ってる。  だけど、それがなんだかあったかくて。  私は永田に、全力で寄りかかりたくなってしまうのだ。
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