1.はじまりは一生の不覚

8/10
前へ
/398ページ
次へ
 地味で三十路で元カレもといヒモを10年飼ってた上に処女の私が、ラブロマンス小説を書く隠れ趣味持ち……終わった……。 「このこと、誰にも言って欲しくないですよね?」  しばし突っ伏していた私に、永田が静かに尋ねた。  顔を上げると、オフィスにはもう、私たち以外は居なかった。  と、いうことは…… 「う。まさか……脅す気?」 「とんでもない。交渉の余地はありますよ」 「なにが望みなの?」  楽しそうな永田を睨みつけながら聞くと、彼は逃げ道を塞ぐように、突っ伏した私の背後から机ごと覆いかぶさり、 「あなたの事を好きにする権利」  耳元で囁いた。 「ひぁっ?!」  笑いを含んだ吐息がくすぐったくて飛び上がる。  うああっ、耳がかゆい!  耳をかこうと暴れると、真上から我慢出来ずといった笑い声が降ってくる。 「こういうのが好きなんでしょ? 趣味悪いですねー先輩」  馬鹿にしたように言って、永田が飛び退いた。  咄嗟に放った私の肘鉄が空を切る。 「三十路で、処女で、趣味でエロ小説書いてるなんて、終わってる」 「エロじゃないわよ、ロマンスよ、恋愛、純愛なの!」 「ちゃんとした恋愛した事ないくせに?」 「う! うるさい!」  若干涙目になりながらも、腕をぶんぶん振り回す。     
/398ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2461人が本棚に入れています
本棚に追加