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同居人はしばらくすると何やら忙しそうに動き回る。
私はその後についていくのだが、同居人が何をしているのかまでは理解できなかった。
彼の手元からは鼻をくすぐる良い匂い。私はその匂いにつられて手を伸ばすのだが、
「ダメ」
そう言われ、彼の手元を離れさせられる。
「夕飯だよ~」
しばらくすると彼は私にそう声をかけた。急いで向かうと私のご飯はいつものカリカリだった。彼の夕食を覗く。毎日毎日違うものが彼の目の前に現れていた。
ずるい……。
私はそっとまた、彼の食卓へと手を伸ばすのだが、
「こら」
叱られてしまった。
もう少しで手が届いたのに、残念。
私は渋々、いつものカリカリを食べていた。
夕食後、私は彼の膝の上で眠っていた。
そして夢を見る。
母に抱かれている夢。
手足が自然と動いてしまう。
彼は眠っている私を丁寧に撫でるのだった。その心地よさが母の胸の中にいるようで、甘いまどろみの中、私は幸せな時間を味わっていくのだった。
そう、同居人は私のことを「猫」と紹介する。私には「猫」の他にも名前があったが、それは彼と私の秘密にしておこう。
毎日が同じことの繰り返しのように感じてしまうが、彼との関係は少しずつ変化していく。魔法使いの彼は全く歳を取らない。
でも私は毎日少しずつ歳を取る。
いつの間にか彼の歳を越えるところまで行ってしまう。
あとどれくらい彼といられるだろうか?
あとどれくらい彼に撫でて貰えるだろうか?
そんなことを考えると、やっぱり毎日は同じことの繰り返しではなく、大きな変化が少しずつ確実にあるのだと私は思うのだった。
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