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俺の腕を掴む飛鳥くんに笑って優しく手を包み込むように離し、リビングを出た。
素直に聞いていればしばらくは機嫌がいいんだ、これは自分を守るための行動だ。
長年住んでいて、逆らわない方がいい事は学んでいる。
春が近いとはいえ肌寒い外に出て、ポストの新聞を取った。
もうすぐ父が起きてくる時間だからか、早く家に戻って朝食の準備をしなくてはいけない。
父は母ほどに露骨ではないが、俺が嫌いという事は共通している。
俺を居ないものとして、ずっと無視され続けている…もうどのくらい話していないだろうか。
正直、殴られたりするより存在を消される事の方がずっと辛い。
俺はここに居るのに、目も合わせようとしない。
父はいつも俺に背を向けていて、父の顔はよく見る事はなくなった。
新聞を少し強く握ると、少し新聞にシワが出ていた。
直そうとシワを指でゆっくりと撫でて伸ばしたら、目立たないくらいにはなった。
新聞を持っていこうと思ってたのに、俺の足元になにかが落ちている事に気付いた。
新聞の下にあったチラシかなにかだと思い、しゃがんで拾うと…それは手紙サイズの黒い封筒だった。
封筒の角にはこの前に飛鳥くんの部屋に行った時にクロス学院のパンフレットと一緒に見せてくれた学院の校章が金色で印刷されていた。
クロス学院といえば思い付くのは試験に合格して今年の春に入学するのは一人しかいない…飛鳥くん宛ての手紙だろう。
なにか重要なものかもしれない、入学間近で届くなんてよっぽどだ。
早く戻らないと怒られるから、宛先を見る余裕がなかった。
俺は新聞と封筒を抱えて立ち上がり、急いで家に入った。
楽しそうに話している学兄さんの声が玄関からも聞こえてくる。
靴を脱いでリビングのドアを開けて、テーブルに向かっている母に新聞を渡してから、ソファーに向かい学兄さんを無視し続けてる飛鳥くんに封筒を渡した。
「飛鳥くん、ポストに入ってたよ」
「ん?ありがとう」
飛鳥くんは俺を見て嬉しそうに微笑んでいた、俺にはとても勿体ないくらいの眩しい笑顔だ。
朝食を作ろうと、キッチンに立つと後ろから学兄さんと飛鳥くんの言い争う声が聞こえた。
俺との態度が違い、気にくわなかった学兄さんは飛鳥くんの隙をついて手から封筒を奪い取ってリビングの入り口まで走って行った。
油断していた飛鳥くんはさすがに怒ったのかソファーから立ち上がり、ちょっとキツめに学兄さんを睨んだ。
この兄弟喧嘩はよく見る家でのちょっとした一場面だ。
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