第一話

22/52
前へ
/366ページ
次へ
いつもの大きな声を抑えて慎重に話を進める。 謙虚の方がいいかと思ったが、この場合はハッキリ言った方がいい。 可愛さも忘れない、こういう奴は押し通せば何とかなる。 世渡りは上手いんだ、少し話しただけでソイツが好きそうな自分を演じる事が出来る。 騙すのなんて、俺にとっては何でもない事だ。 話していると、意外と物分りがいい理事長らしくて俺の口元が緩みっぱなしだ。 ……やはり大人は馬鹿で間抜けだと内心笑いが止まらなくなる。 俺の作った不幸話を黙って聞いていて、聞き終わったら同情される。 家族には蔑ろにされ、兄弟にはいじめられても頑張っている。 いつか、未来に眩い光が差し込むのを夢見ている。 俺が理事長だったら、そんな話絶対に信じないけどな。 時々よく分からない言葉を言っているが、それはどうでもいい。 理事長の話なんて、ほとんど聞いていないし聞く必要がない。 俺の話だけが大事なんだ、理事長の話なんて聞く時間がもったいない。 そんな暇があったら、俺に構えばいいんだ…俺がこの世界の主役なんだから! 大事なのは俺を学校が受け入れるかどうか、それだけだ。 『君が姫と呼ばれているなら本物だろう、間違えてしまってすまなかった…正式な書類を後日送ろう』と言われやっと自分の非を認めたかとため息を吐く。 長かった、もうそろそろ疲れてきたところだった。 普通ならここで終わるが、黒い封筒を片手で握り潰した。
/366ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2013人が本棚に入れています
本棚に追加